読書記録(2022年11月):ウエザ・リポート 見上げた空の色/宇江佐 真理など

2022-12-01

 すでに12月になってしまったけれど、中身は11月分と言うことで。

 暇な時間に本を読むという習慣をだんだんと思い出してきた。Amazonで何か必須の生活用品を買おうとしていたら、いつの間にかカメラ用品やらIT系ガジェットやらの間を彷徨っているということが減り、代わりに面白そうな本を探してカートに追加するということが増えてきた。

 問題はその結果カートに積み上がった商品の合計額が変わらないどころかむしろ増える傾向にあることだ。本当に困っている。

ウエザ・リポート 見上げた空の色/宇江佐 真理


 宇江佐真理さんは大好きな時代小説家の一人だ。2015年の秋に亡くなったというニュースを聞いたときは大変驚くとともにショックを受けたものだ。まだ60代の書き盛りと思っていたし、新作も変わらぬペースで出ているように見えていたのに。

 この本は新聞や文芸誌などに宇江佐真理さんが書いていた短編エッセイをまとめたもので、文庫版は亡くなるわずか1ヶ月前というタイミングで発売された。文庫化に際しては、単行本に収録されていなかった「私の乳癌レポート」が追加収録されている。

 この本は彼女が亡くなったというニュースを聞いた直後に、その時点の最新文庫本として思わず買ったままにしてあったものだ。

 前半は2010年前後に書かれたものが中心となっていて、時事問題や東日本大震災のこと、自身の昔の思い出や作家稼業の裏話などが軽妙に語られている。一方で老いや病気、そして自分自身の死について想像し、触れていることもある。いろいろと伏線が張られているように感じる部分もあるが、ご本人がそんなことを意識していたのかどうかは分からない。

 そして「私の乳癌レポート」。病気が発覚する経緯や闘病の様子がそれまでのエッセイと同じ調子で綴られている。癌は今どきすごく珍しい病気ではないし必ず死につながるものではないけれども、患者本人や家族にとって過酷な現実が待っていることに変わりはない。癌について身につまされる記憶や経験がある人には、読み進めるのはかなり気が重たい内容だ。

 この闘病記は小説ではないから結末はないし続編もない。亡くなってからもう7年が経過しているが、改めて本当に残念でならない。
 

サーチライトと誘蛾灯/櫻田 智也


 何年か前にKindle版を買ってそのまま読まずに放置していた一冊だ。新しく本を買う前に「積ん読」を解消しようと、Kindleライブラリの奥底から発掘した。

 櫻田智也さんと言えば、自分自身にとってはデイリーポータルzに彗星のように現れた新人ライターというイメージが強い。それももう15年くらい前のことだっただろうか? その後デイリーポータルzでは名前を見なくなったと思ったら、あるときミステリー小説家として活動されていることを不意に知り、是非その作品を読んでみたいと思い買った一冊だ。

 タイトルにもなっている「サーチライトと誘蛾灯」は東京創元社の第10回ミステリーズ!新人賞を受賞している。

 独特のクセを持った主人公の青年が、ほんのちょっとしたヒントから事件の謎解きをするミステリー短編集だが、その主人公自身は探偵でも刑事でも弁護士でも何でもなく(少なくともこの本に収録された5話の中では)まったく彼は正体不明なところがまず面白い。

 登場人物達の軽妙な会話が織りなす軽い空気、ともすればコメディとも思えるようなシーンの連続につい惑わされそうになるが、その裏で起こる事件と謎解きの展開は、けっこう重かったりする。特に「火事と標本」はとても印象深い物語だった。

 作者による「あとがき」には、どのようにしてこの作品が作られたのか?という種明かしがされている。生粋のミステリーファンであればかなり納得がいく話のようだが、残念ながら自分にはそれを理解できるほどの前提知識がない。しかしそれでもこの本を楽しむのに何も問題はない。続編も出ているようなので是非読んでみたいと思う。
 

大名倒産/浅田 次郎


 浅田次郎さんと言えば現代物と時代物を両方手がける作家で、現代物は過去に何冊か読んでもあまりピンと来なかったのだが、時代物にはどれもすっかり嵌まってしまった。新撰組をテーマにした三部作は最高だったし、天切り松シリーズは読んでいて文字通り「震えた」ことがある。なので、この本を見つけたときには買わないという選択肢はなかった。

 幕末のとある大名家を舞台にしたこの物語は完全なるフィクションだ。

 しかし背景にある江戸幕府と諸大名家および日本の社会状況の描写は、ほとんどノンフィクションではないかと思わせるリアリティがある。いや、もちろん当時の「リアル」を知っているわけはないので、それも空想上のリアリティに過ぎないのだけど。

 250年に及ぶ泰平の江戸時代は、もちろん戦争がないという点では最高の時代であった一方で、多くの歪みを社会にもたらし持続不可能な状態に陥っていた。明治維新は決して外圧だけで起きたことではなく、いずれ内部から崩壊していたのかも知れない、と改めて思えてくる。

 大名家の財政的困窮は背景とし色々な時代小説でて触れられているが、実際どの程度の経費を使い、どのように借金が取り扱われ、行政府であり権力機関としての幕藩体制がどのように運営されていたのか、その下で働く一人一人の武士達の懐事情などの関係を詳細に描写した小説は他に読んだことがない。

 そうした新鮮な視点を持った良質な「エンタメ時代小説」であるとともに、その裏に張り巡らされた緻密な考証とのバランスがさすが浅田次郎作品だなと思う。久々に感じる爽快な読後感が感じられる一冊(実際は上下巻の二冊)で、衝動買いして良かったと思う。
 

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