JALの国内線の主要幹線に間もなく久々の新型機 エアバスA350−900 が就航する。その初号機となる JA01XJ は6月にデリバリーされ、先月からほとんど毎日のように訓練飛行を行っているところだ。
しかも訓練飛行のスケジュールはJAL自ら公式にSNSで公開していたりして、まるで我々マニアに写真を撮ってくれと言わんばかりだ。いや、そう言ってるに違いない。お願いされたら受けなくてはなるまい。
そこで、公開された訓練スケジュールをじっくり検討し、写真を撮るなら午後の成田空港が狙い目だろう… と言うことで、お盆の連休に入った土曜日にカメラを持ってひとっ走りしてきた。
PENTAX K-1改, DFA* 70-200mm F2.8 ED DC AW(100mm), f14, 1/160sec, ISO100, -0.3EV
まず向かったのは成田空港のB滑走路北端にある「十余三 東雲の丘」だ。前例や風向きから、きっとここに降りてくるはずだと予測した。
到着の1時間くらい前はまだ人がまばらで少し不安だったが、時間が経つにつれ同志達がわらわらと増えて、最終的に脚立組含め三重くらいの人垣ができた。そして予想通りに、いよいよ目当てのA350がやってきた。
PENTAX K-1改, DFA* 70-200mm F2.8 ED DC AW(100mm), f13, 1/160sec, ISO100, -0.3EV
チャンスはほんの一瞬でタッチダウン直前に目の前を掠めていく。この位置から機体全体を収めるなら超望遠は不要なので、今回はK-1改と70-200mmを使った。連写速度が遅いがAFは問題ないし、横に一定速度で流すなら手ぶれ補正も問題ない。
日差しが微妙な感じだったが、背景の青空も滑走路周辺の芝も綺麗だし、レジ番も特別マーキングも特徴的な翼端もきっちりと、形式写真的な感じで写せたのでまずは満足だ。
PENTAX K-1改, DA* 300mm F4 ED [IF] SDM, f8.0, 1/800sec, ISO200, -0.3EV
到着を見届けたら次は出発を狙う。今度はA滑走路から南に向けて離陸するはずと予想して、反対側の「ひこうきの丘」へと移動した。時間に余裕はあるから急ぐ必要はない。
「ひこうきの丘」はいつもよりかなり空いていた。暑すぎるからだろうか? 「東雲の丘」にはあんなにいた同業者達も離陸には興味がないのか、先ほどとは違って出発時刻になっても閑散としたままだった。
そんな中、スケジュールより少し遅れてA350は再び新千歳へ向けて成田を離陸して行く。乗客も貨物も積んでないせいか離陸も上昇も速い。それともA350の特性だろうか?
PENTAX K-1改, DA* 300mm F4 ED [IF] SDM, f7.1, 1/800sec, ISO200, -0.3EV
むむ? 「ひこうきの丘」はそれでもA滑走路の延長線上ではなく、少し西側にずれた位置にあって、離陸機でも側面がわずかに見えるはずなのに、この日の JA01XJ はほとんど真上を通過していく。風に流されたのか? パイロットの意思なのか? おかげでほぼ完全に機体真下面の写真になってしまった。
PENTAX K-1改, DA* 300mm F4 ED [IF] SDM, f6.3, 1/800sec, ISO200, -0.3EV
頭上を過ぎ去ったあと、バックショットもほとんどお腹しか写ってないけど、A350の特徴であるクルッと巻き上がった翼端がよく分かるし、機体後部のロゴや尾翼の鶴丸がなんとか見える。
それにしてもA350は本当に静かだ。こともなげに高度を稼ぎ、静かに、あっという間に飛び去っていってしまった。また羽田あたりで会おう…!
Nikon D500, AF-S 200-500mm F5.6E ED VR (500mm), f13, 1/800sec, ISO3200, 0EV
…と思っていたら、羽田から出発する JA01XJ の姿も撮りたくなって、翌々日の早朝に羽田空港に出かけてみた。
しかし、予想が全て的中した成田とは正反対に、羽田では撮影ポイントも天候も使用する滑走路も、何もかも目論見が外れてしまい、結局思っていたような写真は1枚も撮ることができなかった。
中でも最大のミスは感度をISO3200で撮ってしまったことだ。羽田にはK-1改に代えてD500を持ち出したのだが、前回使ったときの設定がそのままになっていた。なのでこの1枚はあらゆる面で失敗なのだが、最後にアリバイ写真として貼っておく。
と言うことで、JALのA350は約半月後の9月1日に羽田ー福岡線に就航する。当初は始発からとされていたが、その後変更されてお昼の便が初便となるようだ。セレモニーとかの都合かもしれない。
で、実は9月中にJGC修行兼ねてA350に乗ってみる予定でいる(初便ではない)。何事も新鮮なうちが旬だから今のうちに味わっておかなくてはなるまい。A350はまだ1機しかデリバリーされていないので、いずれにしろ今回撮影した JA01XJ に乗ることになるはずだ。
以下余談
さて、以下は余談だ。ANAのA380について書いたのと同様に、JALのA350についても勝手な思い込みを長文で書いておく。ついでにA350に取って代わられる予定のB777の写真を貼っておく。
A350は再生JALのシンボルなのか?
JALがA350の導入を決めたのは2013年のことだ。確定発注が31機、仮発注が25機の計56機で総額1兆円を超えるらしい。経営破綻から2年しか経過しておらず、まだ再生過程にあった航空会社にしてはかなりの大規模な投資だ。これは現在の主力機種で40機も保有するB777の後継機であり、経営再建のために文字通りの社運をかけた重大な経営判断だった。
機種選定に関しては、歴史的にアメリカの影響力が非常に強い日本の航空会社にあって、50機規模におよぶ大型主力機にヨーロッパ製のエアバスを選択した意味は多分かなり大きい。特に長年にわたってダグラスやボーイング機を飛ばし続け、国営時代から国策と無縁でいられなかったJALにとってはなおさらだろうと想像する。
PENTAX K-1, DFA 150-450mm F4.5-5.6 ED DC AW, f4.5, 1/400sec, ISO400, -0.7EV
もちろん日本へのエアバス機の導入は初めてでもないしは珍しくもない。今や米国の航空会社でさえデルタ航空のようにエアバス機は山ほど飛ばしていたりするのだから、もはや民間航空会社の機種選定に関して、国益とかしがらみとか外圧とか政治的事情とか、そんなものはほとんどないのだろう。ロッキード事件なんて40年も前の話だ。
しかし、JALがA350を選定したということについては、やはり感慨深いものを感じざるを得ない。何しろ国内線も国際線も利用客の多い幹線で活躍し、信頼性が異常に高い神機B777の代わりなのだ。B777XでもB787-10でもなくA350を選択したことには、やはりどこかに過去との決別の意思、再生のシンボルとしての意味があるのではないかと思いたくなる。
キャパシティは足りるのか?
実際のところ、A350はB777と比べると機体が小さい。本来A350はB787が直接のライバルなのだから「B777をA350で置き換える」というJALの説明には、少し違和感がある。
実際、国内線向けのB777-200に対しA350-900の座席数は6席ほど減少しているし、B777-300には到底及ばない。国際線については具体的な数字はまだ発表されていないが、機体のサイズ差を考えると、B777-300ERに対しA350-1000の座席数はそれなりに減るはずだ。
PENTAX K-1改, DA* 300mm F4 ED [IF] SDM, f4.5, 1/4000sec, ISO200, -0.3EV
果たしてこれでキャパシティは足りるのだろうか? 再生とともにダウンサイジングを進めてきたJALにとっては、B777-300ERでさえもまだ大きすぎるというのだろうか?
ANAとは別の道を行くのか?
ライバルのANAは今でもB777-300ERの新造機を次々に導入しているし、その後継には順当にB777-9Xを選定している。B787-10も導入しているし、A380は少し事情が違うとは言え、全体的にANAはJALとは正反対に大型機を指向しているように思える。
考えてみればこの30年間、ANAとJALは基本的に同じ機体を同じような路線に導入してきた。しかしそのバランスはJALがA350を導入することで今後崩れようとしているのかも知れない。
どうなるかは分からない。ANAがJALにならってA350を導入する可能性は非常に低いが、JALが結局A350-1000ではカバーできない超高需要幹線向けに、結局B777-9Xを少量導入する可能性はまだ残っているのではないかと思う。
いずれにしろ、いち航空機ファンとしては、国内に飛ぶ飛行機のバリエーションが増えることが嬉しい。いまはまだ新鮮で物珍しいA350も、そのうちB777のように当たり前になって、写真を撮るのも搭乗するのも飽きるに違いないのだが。