10月18日に公開されたK-1/K-1 Mark II用の新ファームウェアVer 2.00 には秋向けのスペシャルカスタムイメージ「九秋」だけでなく、まさかの新機能が追加されていた。その名は「Grad ND」というもので、露出の異なる2枚の写真を撮影しそれを合成することで、グラデーションNDフィルター(ハーフNDフィルター)を使用したような効果を得ることが出来るというものだ。
そして面白いことにこの機能はファームウェアをアップデートしただけではロックされており、別途解除キーの購入が必要となっている。お値段は11,000円なり。解除キーは2次元バーコードで発行されK-1/K-1 Mark IIで読み込むことでロック解除され、Grad ND機能が使えるようになる。
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どのような機能なのか、詳細は↑この公式ページにざっくりとまとめられている。ページ末尾には購入のためのリンクも張られている。
Grad ND機能使用説明(マニュアル) – gradnd_manual.pdf
そしてなぜか先ほどのページにはリンクされていないのだが、PDFでより詳細な情報も配布されている。基本的には購入した人向けの使用説明書なのだが、わずか4ページだし使い勝手および何が出来るのかは、このPDFを一読すればすべて分かるようになっている。
個人的に理解した範囲で重要な点、および撮影手順は以下の通りだ。
- ベースとなる露出値は露出量の多い方(地面側)を基準に決める
- ベース露出値に対する減光量(空側)を決める
- グラデーションの方向(ノーマル、リバース、カスタム)を決める
- 撮影する(自動的に2回シャッターが切れる)
- ポストビューを見ながら減光開始位置、減光完了位置、傾きなどを決める(処理結果はリアルタイムに反映されないが、記録前にプレビュー処理することは可能)
- OKを押してファイルに記録する
ポイントは、露出関連のパラメータは当然撮影前に決めないといけないが、合成点というかグラデーションの位置や幅や傾きは撮影後、処理前に色々いじれるという点だ。そして記録後は変更できない。つまり、RAWで撮影した場合でも従来からあるHDRやリアルレゾリューションと違って、処理済みのデータのみ記録される(ファイルサイズは通常のショットと同じ)
左は撮影前にGrad ND機能を呼び出してから最初に設定する項目だ。グラデーションスタイルと減光量をあらかじめ決める。右は撮影後に減光ポイントを決めるポストビュー画面だ。
この時点では画像はRAMにあるだけで、SDカードには書き出されていない。色々な既存ボタンを駆使して、位置や幅や角度を慎重に決めなくてはならない。
ISOボタンを押すと実際に合成処理を行って結果を確認することが出来る(この時点でもまだ記録はされない)。何度でも微調整して合わせ込み、最終的にOKボタンを押すとファイルに記録される。
ここまで操作の話ばかり書いたが、試してみた結果を以下に何枚か並べておく。Grad NDを使わない一発撮りと、Grad NDを使った場合を並べていく。
PENTAX K-1 II SE, HD DFA24-70mmF2.8ED SDM WR(35mm), f8.0, 1/60sec, ISO100
まずこれはGrad NDを使用せず普通に撮ったカット。露出は地面の方に合わせたので空はかなりオーバーになっている。が、ふんわりしたハイキー風味で図らずもこれはこれで良い感じだ。
PENTAX K-1 II SE, HD DFA24-70mmF2.8ED SDM WR(35mm), f8.0, 1/60sec, ISO100
そしてこれは、上と全く同じRAWファイルをLightroom Classicで、空の部分にマスクをかけて露出値およびハイライトを調整したものだ。階調と色味はうっすら戻ってきたが、太陽の周辺は明るすぎてどうにも処置が難しい。なおデータ的に白飛びはしていない。
PENTAX K-1 II SE, HD DFA24-70mmF2.8ED SDM WR(35mm), f8.0, 1/60sec, ISO100, Grad ND使用
そしてこれがGrad NDを使って撮影したもの。対岸の河川敷あたりに合成始点(露出マイナス側)を置いて合成終点は川の真ん中あたりに置いた。補正量は-1.7EVだ。
これがいい写真かどうかは別にして、たしかにGrad ND効果が出ていると思う。RAW現像するにも太陽周辺から空の階調や色をそれほど苦労することなく引き出せる。なるほど!
PENTAX K-1 II SE, HD DFA*70-200mmF2.8 ED DC AW(115mm), f5.6, 1/30sec, ISO100
次に望遠レンズに付け替えて河川敷をアップにしてみた。この通りかなり輝度差が大きくて、河川敷を潰さないように露出を決めると空は白くなり夕焼けの色が出なくなる。なお右の画角外に夕日があってフレアが入り込んでいる。
PENTAX K-1 II SE, HD DFA*70-200mmF2.8 ED DC AW(115mm), f5.6, 1/30sec, ISO100, Grad ND使用
これこそGrad NDが絶大な力を発揮するだろうと適当に撮ってみたらこんなことになってしまった。減光量は-2EVだが、このくらいの輝度差/減光量になってくると、グラデーションの位置と幅をかなり厳密に合わせないと、こんな感じで境界線が浮き出てしまう。
PENTAX K-1 II SE, HD DFA*70-200mmF2.8 ED DC AW(115mm), f5.6, 1/30sec, ISO100, Grad ND使用
位置を再調整して撮り直したのがこれ。うーん、これもちょっと違う気がする。もうちょっと下にしないとダメだろうか?
そもそも角形のグラデーションフィルターを使って撮ったことがないので、位置合わせや減光量の感覚や経験がまったくない。当然ながらその辺のことが身についていないとこの機能も宝の持ち腐れなのだろう。
ということで、K-1/K-1 Mark IIに有償で追加されたGrad ND機能は、角形フィルターがなくてもグラデーションND効果が得られる優れものなのだが、こうやってカット&トライをしようとすると、効果がリアルタイムに確認できないし、後処理に5秒くらいの時間がかかるので、途端に面倒くさくなる。これは初めての人が使う機能ではないのかもしれない、と使ってみて初めて気がついた。買ったことを後悔しているわけではない。
使用頻度は少ないと思うが、ときどき効果を発揮しそうな場面に出会うこともあると思うので、その時のためにまた練習をしておこうと思う。
一時はもうメンテナンスしか行われないような雰囲気を出していたK-1シリーズに、令和4年になって新機能が追加されるのも感慨深いものがあるし、それが有償販売であるというのも現在のペンタックスの状況を反映しているという勘ぐりも出来るし、そしてスマホカメラで当たり前にやってるQRコード読み込みをフルサイズセンサーを積んだ一眼レフでやるというのも、なかなか味わい深い作業だ。
プレミアム機能の第2弾があるのかどうかは分からない。それになぜか今のところこのGrad NDは、現在ペンタックスの主力機種であり、プロセッサパワー的にもメモリー容量的にももっとも余裕があるはずのK-3 Mark IIIには導入されていない。
何らかの理由で開発に手こずっているのか? あるいはK-3 Mark IIIにはもっと高機能版を開発しているのかも知れない、という気もしている。あるいはライブビュー前提のGrad NDはK-3 Mark III向きではない、と言うことなのだろうか。
いずれにせよ、K-3 Mark IIIのファームウェアにもQRコード読み取り機能が含まれていることを示す痕跡(ファームウェアパッケージにzxingのライセンスが含まれている)があるので、何らかの「プレミアム機能」を追加するつもりはあるのだろう。というか、もうK-3 Mark IIIは手元にないのでそんな心配する必要はないのだが。
PENTAX K-1 II SE, HD DFA24-70mmF2.8ED SDM WR(55mm), f8.0, 5.0sec, ISO100, Grad ND使用
さて、この日は日没後も冬の河川敷でしばらく粘って東京スカイツリーの夜景写真を撮っていた。それについてはまた別途。
なおこの夜景写真にもGrad ND(-1EV減光)を使ってみた。意味があるのかどうか分からないが、少し光が残る河川敷を黒つぶれしないようにする効果はあると思う。