PENTAX K-3 Mark IIIを手に入れたら、実機で確認しておきたいことがあった。と言うのは、高速連写時の連続撮影可能コマ数だ。
いわゆる「バッファ」と呼ばれているものだが、必ずしも物理的なバッファメモリのサイズだけで決まるわけではない。いずれにしろ連写を多用するユーザーにとっては「連写中に何コマまで速度を維持できるか?」を表す指標スペックとして、とても重視される部分である。
K-3 Mark IIIのスペックシート上では、高速連写時にRAWで32コマまでとなっていた。秒間12コマだとしたらわずか2.7秒しか持たないではないか。この点をかなり心配していた。しかし、発売前のタッチ&トライで試したところ、4秒近く連写速度を維持しているように感じたし、同じような声もTwitter上でちらほら聞こえてきた。
せっかく手に入れた我が愛機で、店頭デモ機のように空シャッターを大量に切るのはとても忍びないのだが、乗りかかった船ということで、まだ新品同様のうちに実測してみることにした。
カードスロット1と2が今までと逆!
その前に、一点注意がある。K-3 Mark IIIではカードスロットの1と2の位置が従来機種となぜか逆になっている。
背面から見て手前側が”1″で奥が”2″となっているが、K-1/K-1 Mark IIやK-3/K-3 IIなど、デュアルスロットの従来機とは逆に割り当てられている。
UHS-IIに対応するための基盤の配線レイアウトなどの都合なのだろう。従来機種と併用したり、移行した場合には大いに注意が必要だ。せっかく買ったUHS-IIのカードをスロット2に挿してしまっては意味がない。
測定条件
では本題に入る。連写速度維持可能枚数を測定するにあたって、以下のようにカメラを設定した。
- オートフォーカス:シングルAF, 中央一点, 一コマ目の動作と連写時の動作はともにAUTO
- 露出モード:マニュアル(1/200sec, F5.6, ISO200, AWB) ※測定環境下において適正露出ではない
- RAW設定:DNG形式
- JPEG設定:Lサイズ, スーパーファイン
- レンズ補正:倍率色収差補正, 回折補正のみ
- その他の設定は概ねデフォルトのまま
また、テストに用意したSDカードは以下の通りだ。
- SanDisk Extreme PRO SDXC II 64GB(R:300MB/sec, Class 10/U3)
- SanDisk Extreme PRO SDHC I 32GB(R:95MB/sec, Class 10/U3/V30)
- PROGRADE COBALT II 128GB(R:300MB/sec, W:250MB/sec, Class 10/U3/V90)
テスト毎にK-3 Mark IIIでフォーマットして中身を空にしているが、いずれのカードも新品ではなくそれなりに使い古したものだ。
シャッターボタンを手で押し、連写速度が落ちたところで撮影終了。カード内に記録されたデータ数(-1)が速度を保って連写できた枚数となる。
その後ボディのアクセスランプが消えるところまで、動画に撮りつつ時間を測定した。最初のテストを3回繰り返し実施したが、バラツキがほぼなかったので以後1回ずつしか行っていない(シャッター回数セーブのため…)
結果!
さて、結果は以下のようになった。
記録設定 | カード(Slot1 / Slot2) | 連写枚数 / 時間 | バッファ開放時間 |
---|---|---|---|
RAWのみ | SanDisk UHS-II / 空 | 39コマ /4秒 | 9sec |
RAW+JPEG(同時) | SanDisk UHS-II / 空 | 37コマ /4秒 | 12sec |
RAW+JPEG(分離) | SanDisk UHS-II / SanDisk UHS-I | 35コマ /4秒 | 12sec |
RAWのみ | SanDisk UHS-I / 空 | 38コマ /4秒 | 14sec |
RAWのみ | PROGRADE COBALT(交換前) / 空 | 39コマ /4秒 | 13sec |
(2021.6.6 再テスト)RAWのみ | PROGRADE COBALT(交換品) / 空 | 40コマ /3.5秒 | 8.5sec |
なお、上の3つのテストについては動画を以下に貼っておく。タイムコードとシャッターカウントを入れてあるり、いずれも動画の先頭から5秒経過時点でシャッターを切り始めて、オレンジ色のアクセスランプが完全に消えるところで終了している。
まずは一番最初のSanDiskのUHS-IIを使ったRAWのみ記録の場合はこんな感じだ。念のためオーディオデータを分析してシャッター回数を数えたが、記録されたファイル数と一致していた(当たり前)。
約4秒で40コマなので10コマ/秒となり、スペックの最高速度より18%ほど下回るが、連写枚数は+22%ほど多く撮れた。バッファ開放についてどう感じるかは人それぞれかも知れない。なお、アクセスランプは最後に2回ほど点滅しており、もしかしたらデータ書き込み自体は点滅前に終了して、最後は他のことをしているのかも知れない。
次はやはりSanDiskのUHS-IIを使い、RAW+モードにした場合だ。JPEGも同じカードに同時記録している。
単純に書き込みデータ量が約30%ほど増えているはずだが、そんなに連写能力が落ちるようには感じられない。ただしバッファ開放までの時間はデータ量にほぼ比例して長くなっているようだ。
そしてRAW+を使うときの標準的な構成となる、Slot1とSlot2の分離記録の場合。Slot1には今まで通りSanDiskのUHS-IIを、Slot2にはSanDiskのUHS-Iを入れた。
別々のカードを使った方が負荷分散になるかと思ったらそんなことはないようだ。JPEGのみとは言えUHS-Iにデータを書き込むこと自体がネックになるのだろうか? ううむ、RAW+の場合は分離記録をしたくなるものだが、目的次第でよく考えた方が良さそうだ。
2021.6.6追記 PROGRADE COBALT 交換品で再テスト
当初のテスト結果ではPROGRADE製COBALTは連写枚数と速度こそSanDiskとほぼ同等だったものの、バッファ開放時間が長くかかるという結果が出た。これに対しPROGRADEより「カードがUHS-Iで動いてるように思える」との連絡をいただき、新品カードに交換していただくことができた。
そこで交換後の新しいCOBALT UHS-II 128GBで再テストを行ったのが以下の動画だ。条件は前回と合わせてある。ただしこのカードのみ、未使用状態のまっさらな新品である。
約3.5秒間に40コマ撮影できたので、連写速度は11コマ/秒を超え、スペックの上限値に近づいた。撮影終了後から書込みランプが消えるまでの時間も8.5秒とわずかずつながら最速を記録した。
ということで、以前使っていたカードは何か問題があり、UHS-I相当で動作していたのかも知れない。結果的に最高性能が出ることが分かったが、品質というか製品のバラツキがあるかもしれない、という点はやや不安になる。Amazon等の正規ルートで購入し、万が一不審な動作があればPROGRADEに相談してみると良いと思う。
<2021.6.6 追記ここまで>
考察
ということで、何とも言えない結果が得られたが、ここから言えることを箇条書きにしてみる。
- (この測定条件下では)連写速度は最高10コマ/秒程度となった
- 連写持続時間はいずれも約4秒程度で、連写速度が可変してるように見える
- RAW+の場合、2スロット分離記録の方が遅くなる
- UHS-Iカードを使うとバッファ開放時間は長くなるが連写可能枚数はそんなに変わらない
- PROGRADE COBALTはなぜかバッファ開放に時間がかかった → (2021.6.6追記)交換後の新しい同一銘柄のカードでテストしたところ、連写枚数、連写速度、バッファ開放時間ともに最も良い結果となった
K-3 Mark IIIの連写時の挙動について全体的に言えることは、単純にバッファメモリーサイズとカード書込み速度の関係だけではない、何か内部的な事情というかボトルネックがあるようだ、ということだ。もしかしたらUHS-IIの速度を完全に生かし切れていないのでは?という気もする。
そういったことは、実はスペックの数字の不自然さからも想像がついていたことだ。
JPEGの場合は、連写速度を落とすことでそれなりに連写可能枚数は増えることになっているが、RAWになるとなぜか低速連写モードでも連続撮影可能コマ数はそれほど増えない。そもそも高速連写時にはファイルサイズが約2〜3倍違うはずのRAWとJPEGの差も少ないし、RAWとRAW+の差もあまりない、という謎な仕様となっているのだ。
なので、単純にバッファサイズとファイルサイズ、カード書込み速度の関係だけではなく、なぜかRAWデータの処理で詰まっているように見えてくる。
いずれにしろ細かい数字の差異はともかく、今回の実験結果はほぼスペックの特性を裏付けた、と言っても良いのかも知れない。
結論
この結果を受けて、とりあえずはK-3 Mark IIIではPROGRADEのカードは諦めてSanDiskを使うことした(2021.6.6修正)PROGRADEでもSanDiskでもどちらも使えることを確認した。そして連写を多用するような撮影においては、(今までもそうしていたのだが)RAW+を使わずにRAWのみ記録にしようと思う。
願わくはハードウェア的な制限ではなく、将来ファームウェアによってこの辺の謎仕様が改善されてほしいと思っている。