【F1日本GP 2022】3年ぶりの鈴鹿サーキットに20万人が集まる

2022-10-14

 「3年ぶりの……」という枕詞は最近やたらに目につくし、自分でもよく使っているという言葉だという自覚がある。しかし実際そういう実感があるのだから仕方がない。特に先日行われたF1日本GPは「3年ぶり」という感慨がとても深い。

 コロナ禍により日本GPが開催できなかった2年間の間に、F1はいろいろなことが起こった。ホンダが(公式には)撤退し、チャンピオンが入れ替わり、日本人ドライバーが復活し、マシンはグランド・エフェクト・カーになり、タイヤは18インチになった。

 F1に対する情熱は以前よりだいぶ薄れてしまっているのだが、現地まで行って生観戦したいという気力はまだある。だからチケットを買って鈴鹿まで3年ぶりに出かけてきた。

土曜日はつかの間の晴れ:予選

 当初は日曜日の決勝だけ日帰り観戦するつもりでいたのだが、土曜日は晴れ、日曜日は雨という天気予報を見て、直前になって急遽土曜日に出かけることにした。

Alphatauri AT03 / Yuki TsunodaPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(300mm), f7.1, 1/100sec, ISO200
 ヘアピンに進入してくる角田裕毅。今回も鈴鹿まで行きたいというモチベーションの原動力になったのは彼の存在だ。この2年間、なかなか上手く行ってない面もあってもどかしいこともあるが、あと1年の延長戦は本当に頑張って欲しい。一方で”悪い大人”ばかりのF1の世界で潰されないようにして欲しい。

 彼はほとんど自分の息子であってもおかしくない世代で、ただのF1ドライバーとか一人の日本人ファンとか、そういうのとは違う感情を持ってしまっている。「期待している」とか「応援している」というだけではなく「とにかく心配でたまらない」と言ったら一番近いだろうか?
 

Mercedes F1 W13 / Lewis HamiltonPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(300mm), f10, 1/100sec, ISO200
 一昨年まで無敵を誇っていたメルセデスのルイス・ハミルトン。昨年だって実力としてはほぼチャンピオンだった。運と偶然と複雑な政治と”悪い大人”たちの思惑によりタイトルは奪われてしまった。

 しかし今年は全く駄目だ。メルセデスはグランド・エフェクト・カーの導入に完全に失敗してしまった。鈴鹿はドライバーの力量が試されるレイアウトである一方、ダメなマシンと優れたマシンの差も如実に表れる。序盤よりはマシになったがここ鈴鹿でも苦戦しているようだった。

 彼もそろそろ移籍を考える時期なのではないだろうか? 赤い車あたりに。
 

RedBull RB18 / Max VerstappenPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(108mm), f8.0, 1/100sec, ISO200
 そしてハミルトンに代わって新時代のチャンピオンをつかんだのがレッドブルのマックス・フェルスタッペン。最終的に今年もここ鈴鹿で2年連続のドライバーズ・チャンピオン獲得を決めた。昨年と違って今年は文句ナシのチャンピオンと言っていいだろう。

 ここ10年くらい鈴鹿のF1観戦ではカメラマンチケットを利用していたが、今回はヘアピンにあるIスタンド指定席のチケットを買った。ここに増設スタンドが設置されるのも久しぶりではないかと思う。

 ちなみに現地でも話題になっていたが、F1のヘアピンの走り方は昔と今ではすっかり変わってしまった。新世代のドライバーたちのドライビング・スタイルという面もあるし、グランド・エフェクト・カーになったせいもあると言われている。

 以前は”Out-In-Out”の定石どおりイン側の縁石を踏むようにクリップをしっかりとっていたのが、今は多くのドライバーが”Out-Out-Out”でこのヘアピンを通過していく。古いファンからするとブレーキングに失敗して突っ込みすぎたように見えるのだが、そうではなく意図したライン取りでありそのほうが速いらしい。

 だから↑このフェルスタッペンの写真のように、縁石に対して変な位置に変な姿勢でマシンが写る。写真という視点で見ると、常設Iスタンドの最下段などは昔から人気の撮影スポットだったが、そこから見える風景はかなり変わってしまったのではないかと思う。
 

MacLaren MCL36 / Lando NorrisPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(260mm), f8.0, 1/100sec, ISO200
 マクラーレンの若きエース、ランド・ノリス。3年前は10代のルーキーで「あれ誰だったっけ?」というレベルだった。当時の日本GP期間中の夜には鈴鹿市内のゲームセンターに一人でいたという目撃談もあるくらいだ。それが今やトップドライバーへあと一歩というところまできている。

 しかしマクラーレンはドライのセッティングが安定していないのか、こうしてブレーキロックするシーンが何度か見られた。
 

Aston Martin AMR22 / Sebastian VettelPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(210mm), f6.3, 1/100sec, ISO200
 今回鈴鹿まで行かなくてはならないと思った理由のもう一つは、セバスチャン・ベッテルの鈴鹿ラストランを見ることだ。彼は今シーズンいっぱいでF1を引退することが決まっている。2010年代前半はまさにベッテルの時代だったし、誰よりも鈴鹿を愛し得意としていたドライバーでもある。

 この予選でも明らかにマシンの能力以上のものを引き出し、Q3に進み素晴らしいラップをたたき出した。アタック後のアウトラップでは観客の(感嘆の)ため息と称賛の気持ちが伝わったのか、小さく手を振りさながらパレードラップのようだった。

 ということで終始ドライのまま予選は特に荒れることもなく終了した。夕暮れに向かって雲は取れていったが、天気は明日に向けて下り坂ということになっている。台風じゃないし大丈夫でしょ!と軽く考えていた、この時はまだ。

鈴鹿名物クラシックカーによるドライバーパレード

 いよいよ日曜日は決勝の日。雨はまだ降っていない。午後2時の決勝の前に12時からドライバーズパレードがあるので、それに間に合うように鈴鹿サーキットに到着した。

Charles Leclerc Sebastian Vettel
Yuki Tsunoda Max Verstappen

 本当は全員分載せたいところだが、ルクレール、ベッテル、角田裕毅、フェルスタッペンの4人だけピックアップしておく。それぞれチームに縁のありそうなクラシックカーに乗っている。運転しているのはそれぞれの車のオーナーさんで、たまに1周できずにリタイアする車が発生することもある。

 この手間がかかったドライバーズ・パレードは鈴鹿のF1日本GPの伝統となっている。
 

落ちそうになるピエール・ガスリーPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(293mm), f5.6, 1/640sec, ISO500
 あ、あと追加でピエール・ガスリー。

 とにかく車が可愛い。ライトブルーのFIAT500のカブリオレ! そしてヘアピンを結構な勢いで曲がっていったときに振り落とされそうになるのを、ドライバーが片手で支えるという神業を見せた瞬間だった。笑えるほのぼのシーンだが、転落したらケガするし危ない!

 ヘアピンは右左はもちろん前後も含めて360度ぐるっと見えるのでとても面白い。それに観客席とコースが近いのでとても良く顔が見える。ドライバーズパレードを見るにはとても良い場所だと思う。
 

予定外の大雨となった大波乱の決勝

 そして決勝。その前、ドライバーズパレードが終わってしばらく経過した午後1時過ぎになってポツポツと雨が落ちてきた。ワンちゃんスタートから前半くらいまではドライで…… という期待はむなしくも打ち砕かれた、あまりにも天気予報通りに雨が降り出したので周囲からも深い失望のため息が聞こえてくる。

Ferrari F1-75 / Charles LeclercPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(210mm), f5.6, 1/100sec, ISO320
Alpine A522 / Esteban OconPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(210mm), f5.6, 1/100sec, ISO320
 スタートの約40分前になってコースがオープンになりレコノサンス・ラップが始まる。全車インターミディエイト・タイヤまたはフルウェット・タイヤを装着し走ってくるが、水煙はこの時点ではまだそれほど高くは上がらない。このままならまぁ何とか普通にレースはできるだろう、と思っていた。この時はまだ。

 しかし、以前はこのレコノサンス・ラップでわりと多くの周回を重ねる車が多かったと思うのだが、今回は全車あっという間にみんなグリッドについてしまった、という印象がある。ウェットのせいもあるだろうし、レギュレーションのせいもあるのだろうか。
 

RedBull RB18 / Max VerstappenPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(300mm), f6.3, 1/500sec, ISO800
 そして午後2時にフォーメーション・ラップを経てレースがスタートした。1-2コーナーの激しいバトルを制したマックス・フェルスタッペンがシャルル・ルクレールを従えてヘアピンへやってきた。

 この30分くらいの間にコース上には相当水が溜まってしまったらしく、激しい水しぶきを上げている。レースをするにも観戦するにもひどいコンディションだが、絵としては派手で格好いい。
 

Alphatauri AT03 / Yuki TsunodaPENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(260mm), f5.6, 1/500sec, ISO1250
 ウェットコンディション下でしかも中段からのスタートとなると、多重クラッシュが発生してあっというまに数台がリタイア、という可能性もあったが、角田裕毅含めて全車がちゃんとヘアピンまでやってきてくれた。
 

Alfa Romeo C42 / Williams FW44PENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(63mm), f4.5, 1/500sec, ISO640
 複数のマシンが団子になってコーナーに進入してくるのはオープニングラップとその後数周だけだ。特にF1では。

 こうなると最速のライン取りより、ポジションをいかに守るかという状態になるから、インベタを行ったり大外を回った入り乱れることになる。スタート直後にだけ見られるシーンだ。ウェットのヘアピンならなおさら。
 

Alfa Romeo C42PENTAX K-3 III, HD DA55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR RE(190mm), f5.6, 1/500sec, ISO500
 しかしレースはオープニングでさっそくサインツがコースアウトし、その後セーフティカーの導入にともなってゴタゴタしたりして、たったの2周で赤旗中断となってしまった。

 過去に例がないくらいものすごく状況が悪かったか?と言えば、少なくとも観客席にいる感じでは「過去にもっと悪いことはあった」と思うのだが、最近のタイヤやマシンの特性がウェットに弱くなってるとも言われるし、実際に走れる状態ではなかったのだろう。

 レースの走行時間は最長2時間まで、中断等を含めた場合は全体で3時間までというルールを考えると、最長で17時がタイムリミットなのだが、一観客としてはそこまでの可能性を考えていたなかった。3年前に新調し実質初の実践投入となったカッパの調子もイマイチで、これ以上は気持ち的にも待てないな…… と言うタイミングで、席を立って帰途につくことにした。

 レースは結局16時をだいぶ過ぎてから再開され、27周のスプリントレースとなったわけだが、まぁ仕方がない。薄暗い中でウェットレースを見るのは2014年でもう十分懲りたから、どのみち16時過ぎに再開されることを知ったとしても居残るという選択はしなかっただろう。

 さて、F1日本GPの再開を待っていたファンが多かったのか、今年はそんな悪天候にもかかわらず3日間で延べ20万人の観客を集めたそうだ。この数字は2012年以来の多さとなる。その背景に何があるのは分からないが、少なくともF1にはまだこれだけの人を引きつける魅力があるのだ、ということを再発見した。

 来年はどうなるだろうか? 実のところ今年で鈴鹿での現地観戦は一区切りつけようかと思っていたのだが、こんな中途半端なことになってしまったので、完全な晴れコンディションでもう一度見ておきたい気はする。その辺はまた来年になったら考えることにしよう。 
 

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