Adobe Camera RAWがGR III/GR IIIxのカメラマッチングプロファイルをサポートした

2022-12-27

 AdobeのCamera RAW(およびLightroom / Lightroom ClassicのRAW現像モジュール:以下Camera Raw)が12月にアップデートされた。いつもの定期アップデートで、バグ修正や新しく発売されたカメラやレンズ、スマートフォンなどのサポートが含まれている。

 その中で今のところ公式サポートリストには何も書かれていないのだが、 実はRICOH GR IIIとGR IIIxのカメラマッチングプロファイルのサポートがひっそりと追加されている。(GR3/GR3xのカメラマッチングプロファイルに対応したことが公式サポートリストに反映された:2023年1月20日追記)

 と言うのも、Adobe Camera RAWにおける各カメラのRAWファイルサポートレベルには概ね3段階ある。

      (1) 非サポート:DNGファイルを開くことはできるがAdobe Rawプロファイルは使用できない
      (2) RAWファイルサポート:Adobe Rawプロファイルを使用することができる
      (3) カメラマッチングプロファイルサポート:各機種ごとの画処理をシミュレートしたプロファイルを使用することができる

 主要メーカーの主要機種はだいたい発売後すぐに (3) までサポートされるが、マイナーな機種だとその限りではない。PENTAX機で言うとK-1/K-1 Mark IIやK-3シリーズは (3) までサポートされているが、KPやK-70、KFなどは (2) 止まりだ。この辺のことを誰が決めているのかはよく分からない。Adobeの一存なのか、カメラメーカーが関わっているのか?

 そこでRICOH GR IIIシリーズはどうなっているかというと、2019年3月の発売以来ずっと (2) のままだったのだ。昨年発売されたGR IIIxも同様だった。GR IIIシリーズにはメーカー純正の現像ソフトも用意されていないので、GR IIIの色味を出すにはカメラ内現像するのが唯一の方法だったのだ。

 わざわざRAW現像するのだから、Camera Rawでカメラ内の画像処理を再現する必要なんでないのでは? というのは理屈ではその通りなのだが、実際はそうはいかない。パソコン上でのRAW現像は何でも出来る代わりにすぐに迷子になる。だから、まずはカメラ内の画像仕上げと同等(≒撮って出し)の状態から現像作業をスタートできるというのは、非常に明確で心強い指針になる。

 多少明るさやコントラストを調整したいだけで済むかも知れないし、ホワイトバランスなど大幅に変えたくなるかも知れない。特定のカットをどうしたいというのがあらかじめ決まっていれば、カメラ内現像でやるのも良いかもしれないが、撮ってきた写真すべてをまずは大きくて色味のより正確な画面でざっと眺めつつ、OKカットをセレクトしながら現像の方針を決めていく…… という作業は、やはりカメラ内ではなくパソコンでやりたい。

 これは人それぞれれの考え方やワークフローの組み方次第なので、これが正しいとかカメラ内現像よりも良いなどと言うつもりは毛頭ない。

 ただ自分自身にとって「写真を撮る」という趣味の中には、撮影という行為だけではなく、撮ってきたRAWファイルをパソコン上で現像処理をしてプリントまで仕上げる、と言う作業まで含まれていて、むしろその現像するという作業自体が撮影と同じくらい楽しいと感じている。

 だから結果的にカメラ内現像と同じ結果がベストであったとしても、それはRAW現像で納得したうえでその結果を確定したい。そのためには、Camera Rawで撮って出しとほぼ同じ状態が得られるかどうか?は非常に大きな問題となっていた。

 前置きが異常に長くなってしまったが、そういう意味でGR III/GR IIIxがここに来て (3) までサポートされたのは、個人的に大事件だ。

Lightroom Classicの現像モジュール (カメラプロファイル)

 ↑これはLightroom Classic(macOS版:以下同様)上でGR IIIxのRAWファイルを選択し、プロファイルブラウザーを開いた状態だ。今まではここには「Adobe Raw」他「アーティスティック」や「ビンテージ」など、Adobeがデフォルトで用意したプロファイルしか選べなかったのだが、12月のアップデートで「カメラプロファイル」が現れるようになった。これがカメラ内現像のパラメータ、GR IIIシリーズで言うところの「イメージコントロール」を再現したものとなる。
 

Lightroomの現像モジュール (カメラプロファイル)

 非クラシック版でも同様だが、iPad OS/iOS版はまだちゃんとサポートされてないように見える。正式なサポートリストに載っていないのはモバイル版がまだなせいかもしれない。(GR3/GR3に対するカメラマッチングプロファイルの公式サポートが反映されている:2023年1月20日追記)

 ここで、カメラ内の「イメージコントロール」とCamera Raw上のプロファイル名は一致していないが、以下のような対応関係にあるようだ。妙な翻訳がされているのはPENTAX機の場合と同様だ。

GR III/IIIxカメラ内「イメージコントロール」 Adobe Camera Raw「カメラマッチングプロファイル」
スタンダード 標準
ビビッド ビビッド
モノトーン モノトーン
ソフトモノトーン 薄いモノトーン
ハードモノトーン 濃いモノトーン
ポジフィルム調 ポジフィルム

 さて、そうは言っても本当にカメラ内現像と同じになるのかというと、厳密には同じにはならない。これはK-1 Mark IIなど他のカメラの場合もそうだ。それを言うなら、実はPENTAX機純正の現像アプリDCUを使っても、カメラ内仕上げとは完全に一致はしない。

 カメラ内現像とそれ以外の外部アプリでの現像が完全一致しないのは、そういうものだと理解するしかないのだが、どこまでの一致を求めるかは人によるだろう。上記したとおり、あくまでも自分なりの現像を開始するスタートポイント、基準点とするならば、「ほぼ」同じで概ね問題ないと言えると思う。

 GR III/GR IIIxではどの程度の一致度なのか、以下にて簡単に比較してみよう。

GR IIIx 日中の風景

 まずは過去にGR IIIxで撮った日中の何でもない風景だ。比較するのに最適とは言えないと思うが、青空があって微妙な色も含んでいて、ハイライトからシャドウまでコントラストもあるので、ある程度の様子は分かると思う。

左:カメラ内(スタンダード) / 右:Camera Raw(スタンダード)

GR IIIx / カメラ内現像 / スタンダードGR IIIx / LrC現像 / スタンダード

左:カメラ内(ビビッド) / 右:Camera Raw(ビビッド)

GR IIIx / カメラ内現像 / ビビッドGR IIIx / LrC現像 / ビビッド

左:カメラ内(モノトーン) / 右:Camera Raw(モノトーン)

GR IIIx / カメラ内現像 / モノトーンGR IIIx / LrC現像 / モノトーン

左:カメラ内(ソフトモノトーン) / 右:Camera Raw(薄いモノトーン)

GR IIIx / カメラ内現像 / ソフトモノトーンGR IIIx / LrC現像 / 薄いモノトーン

左:カメラ内(ハードモノトーン) / 右:Camera Raw(濃いモノトーン)

GR IIIx / カメラ内現像 / ハードモノトーンGR IIIx / LrC現像 / 濃いモノトーン

左:カメラ内(ポジフィルム調) / 右:Camera Raw(ポジフィルム)

GR IIIx / カメラ内現像 / ポジフィルム調GR IIIx / LrC現像 / ポジフィルム

 どうだろうか? 意外に違っているというのが正直な感想だ。色味もそうだしRAWのほうがハイライトの粘りがある。カメラ内現像ではダイナミックレンジ補正はOFFのままだし、Camera Rawでも特にハイライトやシャドウの補正はしていない。その辺いじればもっと一致させることは出来ると思う。

 コントラストの影響があるのかどうか分からないが、ポジフィルム調の青空の色味がだいぶ違うように見えるのはどうしたことだろうか?

 ちなみにCamera RAW側ではレンズ補正のうち歪曲補正はゼロにしないと、カメラ内現像の場合と画角や縦横の線が一致しなかった。GR IIIのボディ内では歪曲補正はしていないだろうか?(改めて見てみるとカメラ内には歪曲補正に関する設定はない)

 さらに周辺光量補正はカメラ内現像ではONしたのだが、Camera Rawの周辺光量補正は100%は過剰となり、50%あたりでカメラ内とだいたい一致するようだ。
 

GR III 夜景

 次に先日GR IIIで撮った東京駅前の夜景で比較してみる。色的には黄色系主体だが、高感度でシャドウ部が大半を占めるとどうなるのだろうか?

左:カメラ内(スタンダード) / 右:Camera Raw(スタンダード)

GR III / カメラ内現像 / スタンダードGR III / LrC現像 / スタンダード

左:カメラ内(ビビッド) / 右:Camera Raw(ビビッド)

GR III / カメラ内現像 / ビビッドGR III / LrC現像 / ビビッド

左:カメラ内(モノトーン) / 右:Camera Raw(モノトーン)

GR III / カメラ内現像 / モノトーンGR III / LrC現像 / モノトーン

左:カメラ内(ソフトモノトーン) / 右:Camera Raw(薄いモノトーン)

GR III / カメラ内現像 / 薄いモノトーンGR III / LrC現像 / 薄いモノトーン

左:カメラ内(ハードモノトーン) / 右:Camera Raw(濃いモノトーン)

GR III / カメラ内現像 / ハードモノトーンGR III / LrC現像 / 濃いモノトーン

左:カメラ内(ポジフィルム調) / 右:Camera Raw(ポジフィルム)

GR III / カメラ内現像 / ポジフィルムGR III / LrC現像 / ポジフィルム

 さっきより分かりにくくなっただろうか。GR IIIとGR IIIxの違いではなく、シーンによる影響だろう。ただいずれにしてもやはりトーンカーブが異なっているような気がする。カメラ内の方が全体的にコントラストが高い設定のようだ。

 

 ということで、完全にカメラ内と一致というわけにはいかない以上に、思ったより違いが大きくて微妙な感じなのだが、それでも「Adobeカラー」なんかと比べたら圧倒的にGRっぽさが再現されていると思うし、自力でこの状態に仕上げるのはなかなか骨が折れる。

 だからやはり冒頭でくどくどと書いた通り、RAW現像のスタート地点としてこれは非常に利用価値があるアップデートなのは間違いない。AdobeのアプリでRAW現像をするというワークフローをとる限りにおいては、GR III/GR IIIxの利用価値がぐっと高まったと言っても良いと思う。



 

2022-12-27|タグ: , , , , ,
関連記事