Nikon Z 8を手に入れてから50日経過した時点での感想まとめ

2023-07-16

 Nikon Z 8が発売されたのは5月26日だったので、7月15日でちょうど50日が経過した。Z 8(以後機種名はスペースを省いて”Z8″などと表記する)であれを撮ろうとか、あそこに行ってみようとかとか、いろいろ考えていたことはあるのだが、その多くはまだ実現していない。梅雨のあいだはわりとしっかり雨が降り、その後は例年どおり猛暑がやってきたので仕方がない。この季節はもともと写欲が落ちがちなのだ。そもそも50日というのは本当に短い。

Nikon Z 8

 でもしかし買った直後の「ただ手に持っているだけで嬉しい」という高揚感は落ち着き、ほんの少しはわかってきたことがあるので今後のためにも少し感想をまとめておこうと思う。思いつくままに書くとまとまりがなくなりそうなので、以前に同様の機材レビュー的記事で使ったことがあるフォーマットに沿って、以下に項目別に書き連ねていく。

 以下の写真はZ8で撮ったものだが、これまでのエントリーでは使わなかったやつを適当に貼ってある。本文とは特に関係がない。

製品コンセプト:★★★☆☆

 Z8は「ミニZ9である」というのは、発表以前のリークの段階から散々言われてきたことだ。それは「Z9の雰囲気を取り入れた下位機種」というのではなく、文字通り「小さくなったZ9」というもので、自分も含めてみんなが驚いた部分だ。

もくもく積乱雲と東京スカイツリーNikon Z 8, NIKKOR Z100-400mm f/4.5-5.6 VR S(105mm), f8.0, 1/500, ISO64
 当初はそんなバカな製品があるか!と思ったはずなのに買ってしまった。

 本来は60Mピクセル化されたZ 7IIIを欲しいと思っていたはずなのに、この「小さくなったZ9」を手にしてしまうと、その細部に滲み出ている「フラッグシップ機らしさ」に感化されてしまい、もう後戻りはできないような気がしている。上位機種であるはずのZ9に対して妥協や遠慮がほとんどない、ということはなかなかすごいことだ。

 なのでZ8のコンセプトは頭では全然納得いっていないのだが、実物は使っていてとても気持ちが良いと感じている。このカメラはD850ユーザーのための製品だと言われるが、D850を使ったことがないのでわからない。でもK-1 Mark IIからの乗り換え先としても悪くない選択だと勝手に思っている。

ファインダー:★★★★★

 月並みな表現になるがEVFはとても良い。

 使われているOLEDパネルは、画素数こそ369万ドットと今どきのEVFとしては少ない方だけれども、フレームレートも高くディレイも少ないし、昔のEVFのようにギラギラしたり、粒々感が目立ったりジャギジャギになったりしないし、明るさも十分でコントラスト感もとても自然だ。なにしろこのEVFはHDR表示にも対応しているのだ。

咲きかけの白い紫陽花Nikon Z 8, NIKKOR Z100-400mm f/4.5-5.6 VR S(240mm), f5.0, 1/1250, ISO720
 AFの動作やその他の操作やカメラの状態によって、フレームレートや解像度が変化することがなく常に表示が安定しているのも良いし、そもそもZ8のファインダーはZ9同様にブラックアウトもスキップもフリーズもない、リアルライブビューファインダーとなっている。これは積層CMOSセンサーでメカシャッターレスであることと一体の機能で、このカメラの骨格とも言える部分だ。

 その結果、被写体を見るという意味でも、カメラの設定や動作状態を把握するという意味でも、このファインダーはOVFかEVFかという問題を越えて、現時点で理想形のひとつだと思えるくらいとても良くできていると感じる。
 

東京スカイツリーが見える下町Nikon Z 8, NIKKOR Z40mm f/2, f2.0, 1/500, ISO64
 「Z8はシャッターを切ってる感がまるでない」という評価をあちこちで見かけたが、それはディレイがほとんど感じられずレスポンスが良いことの裏返しなのだろうと思っている。シャッターフィールの問題のようでいて、実は大部分はこのファインダーの見え具合から来る感覚なのではないか?と。

 ガシャン!と音と振動が発生し、ファインダーがブラックアウトして、その後データの書き込みが完了するまで一瞬待たされる…… みたいな意味での「撮ってる感」は実際のところゼロだ。それを良いと感じるか悪いと感じるかは人それぞれだとして、決定的に写真の撮り方を変えてしまう重要な部分なのだろうと思う。

画質:★★★★☆

 撮れる画像についてもいろいろ評価があると思うが、ひとつ言えることは「高画素は正義」ということだ。いや、個人的には45.7Mピクセルでももはや高画素とは言えないと思っているのだが。

真っ赤なバラNikon Z 8, NIKKOR Z24-120mm f/4 S(71mm), f4.0, 1/500, ISO64
 積層センサーで読み出し速度重視にしたことで画質(特に高感度性能)はある程度犠牲になっていると言われるし、実際にそう感じることもある。

 しかし、いろいろ撮りつつ実際にLightroomで現像作業してみると、Z8のRAWデータは意外に懐が深くて余白が大きいことに気がつく。けっこう思い切っていじれるし、ノイズ感に関しても低感度からある程度感じられる一方で、高感度になってもむしろ大きくは崩れない。今の時代は後処理でなんとでもなる部分だ。だったら無駄な低ノイズより画素数が欲しい(※個人の意見)

 露出とかホワイトバランスとか発色に関しても、慣れ親しんできたPENTAX機とは大きく違うのだけど、違和感を感じるというようなことはない。クリエイティブ系含めたすべてのピクチャーコントロールがLightroomのプロファイルから選択できるところもとても良い。特にサンデーとかソンバーとかデニムとかグラファイトは気に入っているし、適用量を0-100%で調整できるのも分かりやすくて、自由度があってとても良い。
 

金網越しの紫陽花Nikon Z 8, NIKKOR Z26mm f/2.8, f2.8, 1/500, ISO64
 あとはピントがカッチリ来る率が圧倒的に高い(特に対レフ機の場合)こと、動体であればベストに近い瞬間にしっかりシャッターが切れることのほうが、最終的に手にできる絵の質を上げるという点では重要だ。

 だからCMOSセンサーや画像処理の性能やチューニングがどうこうと言うことだけではなく、AFを含めたカメラ全体の機能と性能で得られる高画質という点を特に評価すべきなのだろうと思う。

動体性能:★★★★★

 少なくとも過去の自分の経験をもとにすれば「動体性能はとても良い」以外の評価は思い浮かばない。D5クラスの一眼レフ機やα1クラスの他社ミラーレスと比べてどうかとなるとまた違うのかもしれないが、一般的に言って動体に強いカメラなのは間違いない。

JALのB767とANAのB767Nikon Z 8, NIKKOR Z100-400mm f/4.5-5.6 VR S(400mm), f5.6, 1/2000, ISO320
 いわゆる「動体性能」に関わっているのは、EVFの見やすさと連写の速さと途切れにくさ、そしてAFの認識性能と追従性能が主な部分だと思う。Z8はこれらの点でほぼZ9と同等となっており、とても次元の高いところでバランスしている。

 先にも書いたとおりリアルライブビューについてはもう言うまでもないし、連写速度は最高速が速いというだけでなく、高速なCFexpressカードを使えば多くの場合で事実上の無限連写が可能となる。仮にバッファフルになったとしてもごく短時間で開放される(CFexpressカード依存はあるはず)ので、撮影後に延々書き込み待ちになることもない。

 ちなみに連写速度について、今のところ秒20コマはほとんど使っていない。だいたい秒10コマから15コマで十分すぎる。あとはプリキャプチャをぜひ試してみたいのだが、まだそれが役立ちそうなシーンに出会っていない。ベタだがカワセミの飛び込みとかそのうち撮ってみたいと思っている。
 

コサギNikon Z 8, NIKKOR Z100-400mm f/4.5-5.6 VR S(400mm), f5.6, 1/2000, ISO500
 AFについては柔軟なカスタマイズ性と操作性に加え、高性能な被写体認識にただ驚くばかりだ。どう使えばどうなるのか色々試しているところで、今まで一眼レフ機で培ってきたやりかたは全部忘れて、最新ミラーレス機のAFの使い方を基本から学び直しているような感じだ。

 すでにZ5でいろいろ試してきた流れの通り、常時AF-Cで親指AFを基本とするという方針で使っている。あとはワイドエリアAFと被写体認識、および3Dトラッキングの使い分けと使いこなしがポイントで、設定含めてまだいろいろ試行錯誤段階だ。

 いずれにしても今まではなんだったのか?と思うほどピントは決まる。動体はもちろん風に揺れる草花を近接で撮るのにもそんなに気を使わなくていいいというのは素晴らしいことだ。

操作性:★★★★★

 ボディが大きくて重たいことはZ8の欠点のひとつだ。あまり手が大きくないし体力も腕力もない自分にとっては、1kg近いボディを右手でグリップするだけでやっとで、ボタンやダイヤルを操作する余裕はないのではないか?と心配していたのだが、それは杞憂だったようだ。

涼亭で抹茶Nikon Z 8, NIKKOR Z24-120mm f/4 S(34.5mm), f5.6, 1/40, ISO110
 重たいことは重たいのだけど、全体的に操作性は良い。何よりカスタマイズ性に優れていて、非常に多くのファンクションボタンに痒いところまで手が届くいろいろな機能を割り当てることができる。

 ファインダー覗いたままAFモードやAFエリアの切替もできるし、シャッター半押しとAFボタンとマルチセレクター中央押しにそれぞれ異なるAF動作を割り当てて、状況によってどのAFモードを使うかボタンだけで切り替えることが出来るなど、多才なAF性能と機能をちゃんと使い分けることが出来るようになっている。

 ダイヤルの機能割り当てはニコン方式(後がシャッター速度、前が絞り)に慣れようと当初は思っていたのだが、今は諦めてPENTAX方式(後が絞りで前がシャッター速度)に変更した。もちろん空きダイヤルで露出補正もできる。

 そんな感じでカスタマイズ自由度はかなり高いので、設定を煮詰めていく作業はまだ終わりが見えない。特にFn1をどうするかはとても重要な問題だ。いろいろな先人達の例を見て試してみているところだ。
 

原工房とPEUGEOT 308SW GT (T9)Nikon Z 8, NIKKOR Z40mm f/2, f5.6, 1/250, ISO64
 あとこれは操作性というのかどうかはわからないが、4軸チルト液晶はとても便利だ。なにを数えて”4″軸になのかはよく分からないのだが。そしてミラーレス機であるが故に、EVFと背面液晶でカメラの動作にほとんど差がないという点にいまさら気付いて衝撃を受けている。

 一眼レフ派だったこともあって「カメラはファインダーを覗いて撮るべき」と思っていたクチなのだが、Z8を使うようになってから無意識のうちに背面液晶で撮る頻度が格段に増えた。特に厳しいアングルでない場面にもかかわらず。なんということだ!と自分で驚いている。

デザイン:★★★☆☆

 エンジニアリングデザインとしては優れている、というのはここまで書いてきたとおりなのだが、ビジュアルデザインという意味ではそんなに評価していない。

紫の花菖蒲前ボケNikon Z 8, NIKKOR Z24-120mm f/4 S(120mm), f4.0, 1/800, ISO64
 「格好悪い」とまでは言わないが「どうも垢抜けないな」という感じはする。「大きくて無骨で野暮ったい」と言うべきというかなんというか。

 プリズムが入ってるわけでもないペンタ部が巨大なのも謎だ。Z9からGPSも外されているし、トップカバーはMg合金でもないのにNikonロゴ周りのパーツが別になっているのは、部品の共通化のためだろうか? どうもスッキリしない部分だが、まぁ良いか。

 その一方で持ちやすく操作性も優れていると言うことは頭でわかっているのだが、やはりもっとスリムでシュッとした(なんだそれ?)カメラの方が個人的には好みだ。だから小さくて軽くてシュッとした姿をした、高画素で最新エンジンを積んだZ 7IIIが出たらちょっと心揺れ動くのではないか?と少し心配している。
 

街角Nikon Z 8, NIKKOR Z40mm f/2, f4.5, 1/200, ISO64
 なお前面カバー以外の外装部分がMg合金ではなく樹脂製であるという点については特にネガティブな感想はない。むしろ上手く塗装してあるのではないかと思う。使い込んでいくとどうなるだろう?という心配はあるのだが。

悪いところ:電池とカードスロット

 ここまで概ね褒めちぎってきたので、悪いところもサラッと書いておこうと思う。

ハトとおじさん達Nikon Z 8, NIKKOR Z24-120mm f/4 S(81mm), f4.0, 1/400, ISO64
 まずは電池の持ち。これについては、スペックほどではないにしてもやはり明らかに電池の持ちは悪いと実感する。撮影枚数と言うよりはだいたい半日撮り歩いていると電池残量は30%を切ってくる感じだ。丸1日は持たないような気がしている(まだそういう機会がない)。

 いずれにしても、常に電池残量を気にして小まめに電源をきるようになってしまうことは、せっかくのレスポンスの良さを台無しにするし、それが撮影のリズムを崩す一番の要因だ。Z8の一番良いところを殺しかねない一方で、このサイズに収めるにはこれしかないのだということもわかる。ニコンの開発企画の人たちが考えたであろうジレンマはそのままユーザーにも降りかかっている。

 あともう一点、やっぱりカードスロットの蓋が気に入らない。撮影後にカードを取り出すためにカードスロットを開けるたびに、そのペコッとした頼りない感触にモヤモヤする。こんなに蓋で大丈夫なんだっけ?と。(今はまだ)勝手に開いてしまうなどの実害は出ていないのだが、撮影後毎回触る部分名だけに残念に感じる部分だ。

 大きさと重さについては電池の問題とつながっているのだが、まぁ仕方がないかと諦めがつくようになってきた。今はまだZ 8を持ち出したい欲が強いので何とも評価しがたい。もっと慣れて飽きてきた頃にどう感じるだろうか?と少し心配はしている。

 それもあってあまり大きなレンズは持ちたくない気もしている。50mm f/1.2とか、今度出るであろう35mm f/1.2とか欲しいのだけど。そういう意味で今は意外にZ8 + Z40mm f/2との組み合わせがとても気に入っている。

総合評価:★★★★★

 ということで、ここまで書いてきたことでZ8の重要な特徴をしっかりと網羅できているとは全く感じがしないのだが、実際に自分の使いこなし度合いがこの程度の浅さなのだから仕方がない。

 それは悪いことではなくて、遙かに自分の経験や技量を超えたキャパを持ったカメラだと言うことであり、それは今後の楽しみの伸びしろに直結しているはずだ。全体的に、今までやってきた写真との撮り方とは全然違う、何か全体的に新しいことをはじめたみたいな楽しさを感じられるカメラだ。
 
X-YNikon Z 8, NIKKOR Z40mm f/2, f5.6, 1/50, ISO320
 あとZ 8を手にしてみてから、写真を撮影する合間に30秒程度の動画を撮るようにしている。まだどうにもならないものしか撮れていないし、全貌を全く理解していないので、動画についての感想や評価は割愛する。

 それでも一応なにかなしら撮ってみて、仕上がりを再生して見たり、動画編集ソフトであれこれいじってみたりしていると、次はこうやって撮ってみよう…… みたいなことを考えてまた撮る気になる。それはまさしく写真とはまた違う新しくはじめたもう一つの趣味みたいなもので、やはりZ8はそういうきっかけを与えてくれていると思う。

 なので、購入直後に書いたエントリーで、ほとんど冗談のつもりで「この先10年使えるのか?」という問を立ててみたが、もしかしたら使えるかも?とちょっと思っている。今から10年前に出たカメラのことを思い返せば、あながち確率が低いことではないだろう。


 

関連記事