コロナ禍が始まって以降、ホノルル線という唯一の活躍の場を失ったFLYING HONUことANAのA380は、その後チャーターフライトに活路を見いだして約1年が経つ。それでもとても維持するだけの費用がまかなえているとは思えないが、ただ漫然と空荷でメンテナンスフライトを繰り返すよりはずっと良いし、ANAのイメージ戦略としても効果があるということなのだろう。
FLYING HONUのチャーターフライトは昨年までは成田発着のみだったが、今年に入ってからは関空やセントレアでも行われた。そして今年9月にはとうとう新千歳と那覇へのツアーとともに現地でのチャーターフライトも計画され、さらに10月末には下地島ツアーも予定されている。
ANA / A380-800 / JA381A / 2019年5月 / 成田空港で撮影
このチャーターフライトのチケット抽選の競争倍率は非常に高く、成田発着だと100倍に達することもあったようだ。ダメ元で応募し続けていたのだが、当然のように一度も当たることはなかった。
しかし! とうとう当選の連絡が来た!しかも「奄美・沖縄」世界自然遺産登録記念フライトではないか! 那覇発着ということでそもそも応募数が少なかったのか、運が良かったのかは分からない(多分前者だと思われる)。
ANA FLYING HONUチャーターフライト in 那覇空港 | 国内ツアー | ANA
しかしどうやって那覇まで行く? 緊急事態宣言はどうなる? などなど、当選したものの、いろいろと考えないといけないことがあってかなり悩んだのだが、このチャンスを逃すと2度とFLYING HONUには乗れないかも知れないと思い、エイヤっと決断して那覇往復の航空券や出発前PCR検査(ワクチン接種済みだが念のため)などもろもろ手配をした。
那覇空港に到着〜搭乗
9月25日土曜日。羽田から朝一の飛行機で那覇に飛んだ。久々のANA便で…と思っていたが、結局のところJGC会員として利用が楽ちんなJAL便を使ってしまった。本当に申し訳ない。
那覇空港に到着し、まずは空港食堂でソーキそばを食べてから展望デッキに出てみた。するとA滑走路の反対側、MROジャパンのハンガー前100番スポットにFLYING HONUの1号機 JA381Aがいた。那覇空港の中でA380を駐機できるのはこの位置だけで、もちろん通常は乗客の乗降には使われないスポットだ。
このJA381Aは前日24日に成田から飛んできたわけだが、そのとき成田で滑走路にミシシッピアカミミガメが現れて出発が遅れたというほっこりエピソードもニュースになっていた。
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なお隣にJTAのジンベエジェット(JA05RK)が置いてあったのは、JTAの粋な計らい(もしくはライバル意識)ではないかとANA職員さん達の間でも話題になっていたらしい。
カウンターで搭乗手続きをすると、懐かしい紙の搭乗券とともに普通ではあり得ないほど山盛りのお土産をもらった。フライトタグは早速バッグに取り付けた。
そして出発ロビーには手作りのルートマップが貼られていた。でも柱の裏側だったので気付いた人は少なかったのではないだろうか? せっかくの力作なのに。
さて、このチャーターフライトは世界遺産登録記念という名目も兼ねているので、那覇を出発し、奄美大島、徳之島、沖永良部島から与論島と本島北部を掠めつつ、久米島を回って那覇に戻るルートで、飛行時間は約1時間半となる。
西表島は行かないのか〜と思ったが、そうなると倍以上の時間がかかってしまうだろう。いや、それでも一向に構わなかったのに。
旅客ターミナルから100番スポットまではバスで移動したのだがが、これがガイドさん付きでちょっとした「知られざる那覇空港の秘密ツアー」みたいなものだった。
空港北側をぐるっと回ってA滑走路端を横断し、那覇市内に唯一残っているという天然の海岸脇を通り、B滑走路への誘導路の下をくぐり、海上保安庁などのハンガー前を通ってFLYING HONUの足下までやっと到達する。普通では絶対に見られない那覇空港の景色ばかりだった。
さすがにA380に乗ることが目的のチャーターフライトとあって、ここで少しA380を外側から眺める時間が設けられていた。本当はぐるっと機体の周りを一周してみたかったが、さすがにそこまで自由にはできない。
それにしても三線を持ったり沖縄地方の伝統衣装を着ている人なども含め、みなANAグループ沖縄地区の職員の方達だそうだ。搭乗手続きやゲート周辺なども含め、恐らくこの日の乗客よりも多くの方々がこのチャーターフライトのために働かれていたと思う。
さて、機外で記念撮影をたっぷりしたらいよいよ機内へ。2階建ての飛行機に乗るのはいつぶりだろう? B747のアッパーデッキには何度か乗ったことがあるが、いずれにしろA380は初めてだ。そしてこれが最後かも知れない。
当選したシートは2階にあるビジネスクラスだ。残念ながら窓側ではない。もちろん電動でフルフラットになるし、ゆったりしていて設備も豪華だ。正面の液晶画面もやたらにでかい(18インチあるらしい)。B777-300ERで導入された最新鋭のThe Room仕様ではないが、1時間半のフライトには勿体なすぎる。
JA381Aは2019年製で機齢は3年目になるとは言え、ホノルル線で営業運行していたのはわずか9ヶ月ほどということもあって、まだあちこちピカピカで思っていたよりもほぼ新品同様な状態だ。
離陸から着陸まで… 機内の様子
定刻より早い13時過ぎにはプッシュバックが行われたが、その後滑走路へ移動開始するまでに約30分ほどかかった。どうやらコクピットで計器表示に問題が生じていたらしい。結局エンジンを一度止めてから再スタートして問題は解消されたようだ。何かあったらとりあえずは再起動… みたいなものだろうか?
100番スポットを出たら、A滑走路を誘導路代わりにするなどして那覇空港に昨年新しくできたばかりのB滑走路へと向かった。
那覇空港は離発着数も利用客数も多い巨大空港ではあるが、メインで使われているA滑走路は幅が45mと他の基幹空港よりも狭く、A380の離発着には使用されなかった(法的にも技術的にも不可能ではないのだが)。一方で普段は着陸専用でしか運用されていないB滑走路(こちらは60m幅)を離陸にも利用するなど、様々な点で特別対応の変則的な運用となっていた。
そして定刻よりやや遅れて午後1時50分過ぎいよいよ離陸。A380が那覇空港を離陸するのはこれが史上初となる。
機内では軽食が出た。ANA初心者なので分からないが、もしかしたら国内線のプレミアムクラスとほぼ同等のメニューかも知れない。季節の食材が使われていてなかなか美味しかったし、フルーツやデザートも良かった。さらにナイフとフォークは金属製のもので昔懐かしい感じがした。もしかしてプラスチックごみ問題で、食器類なども再利用可能な金属製に回帰していたりするのだろうか?
あとやや意外だったのは、ドリンクメニューにアルコールがずらっと並んでいたことだ。もちろん飲んで騒ぐような人は誰もいない。だから久々にワインでも飲んで優雅に機上を楽しみたかったが、後に運転の予定があったのでジュースで我慢しておいた。
席は通路側だったが、時々窓の外を覗くこともできた。飛行高度はそれなりに高かったが、奄美や沖縄周辺の離島の様子も見えたし、成層圏まで達していそうな積乱雲など、南国の海らしい景色をA380の2階席の小さな窓から見ることができた。
とりあえずビジネスクラスのエリアはウロウロしたり、トイレも利用してみたりした。しかしもっと機内を見学して歩き回ってみれば良かったと今にして思う。特に1階席を見ておけば良かった。2階建て巨人機をより感じるのは実は1階席の方だったかも?と今にして思う。
予定通り1時間半のフライトの後、那覇空港に戻ってきた。やはりB滑走路に着陸しA滑走路を誘導路代わりにしつつ、出発時と同じ100番スポットに入った。
終日天気は良かったのに、なぜか出発時も到着時も微妙に空港上空に雲がかかり、機体に光が当たらなかったのがちょっと残念だが、やはりハワイ線に合わせてデザインされているだけあって、沖縄の海と空にもFLYING HONUの姿は似合っている。
飛行機マニアとしては、やはりちょっと無理をしてでも乗っておくことが出来て良かったと思う。コロナ禍が終わればまたホノルル線で忙しくなり、もうこういうチャーターフライトが行われることはないだろう。ちょっと残念な気がするが、もちろんFLYING HONUにとっても社会全体にとってもその方がずっと良い。
なので次は是非ハワイに行くときに利用したいと思っている。
Frightradar24によって記録された実際の飛行経路をGoogleマップ上にプロットした。ほぼ、出発ロビーにあった手作りマップ通りだ。目測で飛んでるわけではなく、ちゃんとWAYポイントごとに設定されたルートを飛んだはずなので当たり前のことなのだが。
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