竹富島で牛車に揺られながら安里屋ユンタを聴く

2023-12-05

 波照間島小浜島に続いて訪れたのは竹富島だ。石垣島から船に乗ってわずか10分という近さということもあってか、観光地としてもとても人気が高い。せっかく石垣島まで来たなら行っておいて損はないだろう、くらいのとても軽い気持ちで、ある意味あまり期待もせず、従って何も計画せずに船に乗って竹富島に行ってきた。

 竹富島は古い集落の町並みや美しいビーチなど、伝統文化と自然景観を観光資源として保つことを目的とした取り組みが島全体で行われている。そのため、任意ではあるが入島料300円を徴収する制度があり、フェリー乗り場に自動販売機が設置されていた。もちろん支払った。

水牛車に乗って伝統的町並みを巡る

 船を下りた港にはレンタサイクルや水牛車の受付および送迎バスが並んでいる。ここはやはり水牛車に乗っておかなくてはなるまい。この日は予約なしで普通に受付してもらえたが、周りを見ると予約している人が8割という感じだった。混雑するハイシーズンだと予約しておかないと無理な場合もあるかもしれない。

水牛車に乗る

 牛車は何台も用意されていて、受付順に振り分けられて出発していく。沖縄本島北部の備瀬で乗った牛車よりかなり大きくて、1台に16人くらい乗っている。こんなに重たいもの引っ張れるのか心配になる。
 

水牛のお尻

 自分が乗った牛車を引っ張ってくれているのは「オリオン」という名の若いオスの水牛だ。

 水牛は体格によって力が違うのはもちろんだが、それぞれ性格があるらしい。オリオンくんは基本おっとり型だそうだが、前が詰まるとイラついて煽るらしい。この日はちょうど前が詰まっていた。 落ち着いてがんばれ!
 

牛車から竹富島の集落を眺める

 静かな竹富島の集落の中心部をオリオン君のペースに合わせてゆっくりと進む。平均的に約20分少々といった行程なのだが、過去には最短で8分、最長で1時間越えという記録があるらしい。

 御者の方はいろいろと水牛のことや竹富島に関するうんちくを説明してくれるのだが、コースの半分くらい過ぎたあたりから、三線を弾きながら沖縄民謡を歌ってくれる。それがこの竹富島牛車のクライマックスだ。この日は安里屋ユンタ、涙そうそう、ハイサイおじさんの計3曲歌ってくれた。

 特に「安里屋ユンタ」はこの竹富島発祥の民謡(労働歌)で、多くの沖縄県出身の有名アーティスト達も歌っている。竹富島の白い砂の道を牛車に揺られながら聴く生の「安里屋ユンタ」は、とても心地よい。
 

牛車を惹いてくれた水牛さん

 最後は牛車を降りて水牛たちを間近で眺めることが出来る。基本的に大人しい動物だが、もちろん安全のために守るべき事項があって無闇に近づいたり触ったりしてはいけない。みんなちゃんと守っていたからだとは思うが、多くの人間に取り囲まれてもまったく動じないというか、まぶたひとつ動かさないというか、見た目通り態度もどっしりとしていた。

 みんな立派な角があることから分かるように、牛車を牽く仕事はオスしかやらないそうだ。たしか理由も説明してくれた気がするが、聞き逃してしまった。力の問題だったか、性格的なものだったか。
 

水浴びする水牛

 一仕事終わった水牛は水を浴びていた。人間以外の多くの哺乳類がそうだが、汗をかくことがないので体温調節のために重要なことらしい。なお水を浴びたいかどうかはちゃんと水牛たちが意思表示するそうだ。この日はまぁまぁ暑かったのだろう。

 さて、八重山で牛車と言えば西表島から由布島へ海上を渡る牛車も有名だ。そちらもいつかぜひ乗ってみたい。
 

カイジ浜、コンドイ浜、そして西桟橋

 牛車を堪能した後は自転車を借りてビーチを目指してみよう。竹富島は比較的平らなので今回は電動アシストではなく普通の自転車を借りた。

カイジ浜へと続く白い道

 まずはカイジ浜へと向かう。森に囲まれた白い一本道は、特に何があるわけでもないが、とにかくいちいち美しくて自転車で走ってるだけで気持ちよい。
 

カイジ浜の入り口

 石垣島にやってきてすでに4日目。小浜島や波照間島も見て回った後で、美しい海の景色には慣れてきたつもりだったが、やはりこのような場所に出会うと感動するし、思わずカメラを向けてしまう。
 

カイジ浜

 トンネルを抜けて浜へでてみるとこんな見事な景色があった。これはすごい。波照間島のニシ浜にも負けない美しさだ。

 看板にもあるようにこの浜は星砂で有名な場所となっている。昔は手に掬えば星砂だらけだったそうだが、今はかなり探さないと星砂は見つからない。周辺では子ども達が一生懸命探していて、星砂を一粒見つけては歓声を上げていた。なおここに限らないと思うが、浜の砂や貝など落ちてるものを勝手に持っていってはいけないので、星砂が欲しければお土産として売ってるものを買おう。
 

ハスノハギリ

 陸側からはハスノハギリという木が長く枝を伸ばしていて、天然のテントというか広い日陰が出来ている。そこでしばし腰を下ろしてボーッとしていた。

 今回は叶わなかったが、いつかふたたび八重山を訪れて、どこかのビーチで半日くらい何もしないで過ごす時間をとりたい。
 

コンドイ浜入り口 コンドイ浜先端

コンドイ浜

 続いて竹富島でもっとも有名なビーチ、コンドイ浜へやってきた。

 ここの砂浜は非常に広く、ずーっと沖まで遠浅になっていて「幻の浜」と呼ばれる砂州がある。潮の満ち引きでその様子は変わるらしいが、基本的に船に乗らなくても歩いて(少し泳いで?)渡れるようで、この日も何人か砂州へ渡っている人がいた。羨ましい。行ってみたい……。
 

竹富島の西桟橋

 さらに自転車で移動して西桟橋へやってきた。その名の通りこの桟橋は島の西側に向かって突き出ており、海の向こう、正面には小浜島とその奥に西表島が見えている。

 ここは今でこそ夕陽で有名な絶景スポットとなり、多くの観光客が訪れるが、もともとは竹富島の歴史が深く関わった遺産でもあり、実際に国の登録有形文化財にも指定されている。

 珊瑚礁の隆起で出来た竹富島は昔から農業に適さなかったため、住民達はわざわざ船に乗って西表島まで耕作に出かけていたというのだ。自分達が食べるためという以上に、琉球王朝から課された過酷な税を払うためと言われている。

 その船が出入りしていたのがこの西桟橋であり、1970年代まで現役で使われていたそうだ。このまるで作られたかのような美しい景色に、そんな苦難の歴史的背景があったと知って眺めていると、より味わい深い。
 

集落と白い珊瑚の道

 海の景色を楽しんだあとはまた集落に戻ってきた。

竹富島の集落

 景観保存活動がされている竹富島の集落が他と違って見える理由は色々あるとは思うのだが、見た目に一番大きいのは道路がアスファルトではなく、白い砂で出来ていることだと思う。

 さらに人が暮らしているからには必要となる電気を送るための電柱も、コンクリートではなくすべて木柱になっているという。赤瓦の伝統的な平屋の家屋とあいまって、生活感がありながら見たこともないような美しい八重山の集落を形成している。
 

竹富島の集落ある大きな木

 西集落のスンマシャー(石垣で囲った巨木)これは風水的な意味で集落を守るものであり、集落の要所に何か所か同じような巨木がある。そうとは知らなくてもその存在感に圧倒され、何か意味があるのだろうと察しがつく。
 

キンチョウ

 家々の塀は琉球石灰岩の石垣で出来ているのだが、そこにこんな奇妙な植物がニョキニョキと生えていた。恐らくわざと育てているのではなく雑草なのだと思うが…… 調べてみると名前は「キンチョウ」というらしい。そして時期がいつなのかは分からないが、そこそこ大きく成長しちゃんと赤い花を咲かせるのだとか。そうなるとまたこの集落の風景も少し変わっていそうだ。
 

ブーゲンビリアが咲く竹富島の集落

ブーゲンビリアと蝶

 沖縄ではブーゲンビリアやハイビスカスは年中咲いていて、路地のどこを見てもとてもカラフルだ。そして蝶がたくさん飛んでいる。

 あてもなく散策していると、どこからともなく三線の音と島唄が聞こえてきたりする。それが日常なのか、あるいはちょうど種取祭の準備で忙しい時期だとのことだったので、どこかで練習していたのかも知れない。
 

竹富島の御嶽

 御嶽もあちこちにあった。鳥居があるとくぐりたくなる気もするが、ここは地元の人たちの神聖な場なので立ち入ってはいけない。ここにも島の生活の歴史と現実が垣間見える。
 

竹富島の集落をいく牛車

 そうこうしているうちに牛車に出会った。乗って眺める竹富島の景色も良いが、こうして外から牛車がゆっくり通り過ぎていく様子を眺めるのもとても良い。カメラを構えた人間など気にするそぶりもなく、水牛さんは重たいはずの牛車を引いてゆっくりと通り過ぎていく。
 

アグーカレー

 竹富島ではお昼にカレーを食べた。ここまで来てカレーかよ!という気もしないでもないが、一応これはアグー豚のカレーだ。超美味しい。

 特に事前調査はせずに適当に入ったお店だったのだが、ここは約2年前に放送されたブラタモリで、タモリさんと浅野アナが昼食を食べたお店だった。そのとき撮った写真が店内に飾ってあり、それによるとタモリさんもここでアグー豚のカレーを食べたようだ。だからどうってことはないのだが、そういうことだぞ!と一人納得した。
 

シーサー?

 ということで、事前には想像していなかったくらい竹富島を気に入ってしまった。歴史と文化に基づく伝統的な景観を維持することによって、結果として観光地としての価値を高めようとする島民たちの努力は素晴らしい。もちろん、その裏にはきれいごとでは済まないいろいろな問題があるのだろうと思うが、いずれにしてもその結果、ここでしか味わえない独特の南国リゾートが出来上がっている。

 どの島に行っても結局毎回同じ感想しか言ってない気はするが、この島にも泊まってみたい。そしてコンドイ浜で海に入り、カイジ浜ではハスノハギリの木陰でぼーっと本を読みながら過ごし、西桟橋からの夕日を眺めるのだ。
 

2023年11月 八重山諸島の旅 関連リンク


 

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